海外プラント工事のトラブルと業績 東洋エンジニアリングの場合
海外のプラント工事でトラブルがあると、その会社の業績はどうなるの?東洋エンジニアリングの2026年3月期を例に見る。
東洋エンジニアリングの2026年3月期の営業損益は、連結でマイナス約190億円の損失でした。会社は、主な理由を「主にブラジル向けガス火力発電案件における収支の悪化」と説明しています。2026年2月12日には、ブラジル事業関連の収支悪化を合計205億円の見込みとしました。
- 顧客→東洋エンジニアリング:工事の発注(受注高約1,759億円)(顧客が工事を注文し、東洋エンジニアリングの受注残高になる)
- 東洋エンジニアリング→顧客:設計・調達・建設(EPC工事)(東洋エンジニアリングは一括で工事を請け負って完成させる)
- 顧客→東洋エンジニアリング:工事代金(売上高約1,829億円)(工事が進んで完成した分だけ代金が売上高として東洋エンジニアリングに入る)
資金調達(自己資本と借入金)
東洋エンジニアリングは、工事を進めるための資金を自己資本(株主が出した資金や積み上げた利益)と借入でまかなっています。借入などで利息を払う必要がある資金を有利子負債といい、2025年3月期末の約519億円から2026年3月期末は約614億円に増えました。一方、自己資本は約600億円から約435億円に減り、会社の資産のうち返済の必要がない自己資本の割合を示す自己資本比率は20.9%から16.7%になりました。2026年3月期末には借入契約の財務制限条項(コベナンツ=借入の契約で守るべき財務の条件)について「財務制限条項に抵触」しましたが、会社は決算短信の公表までに「当該抵触は解消」したと説明しています。ブラジルの連結子会社TS Participações e Investimentos S.A.は債務超過(負債が資産を上回り、純資産がマイナスの状態)で、その額は約294億円です。
収益
東洋エンジニアリングの収益は、顧客から工事を受注し、設計・調達・建設を一括で引き受けるEPC事業を進めて完成した分が売上高になる仕組みです。2026年3月期の売上高は約1,829億円で、前の期の約2,781億円から減りました。主要な財又はサービスのラインの区分では、2026年3月期に売上高が最も大きかったのは石油化学の約651億円で、前の期の約475億円から増えています。発電・交通システム等は約463億円から約157億円へ、石油・ガスは約783億円から約404億円へ減りました。
地域別では、2026年3月期に売上高が最も大きかったのは東南アジア・韓国の約717億円で、前の期に最も大きかった西南アジア・中東・アフリカは約875億円から約364億円になりました。日本は約650億円から約312億円、中南米は約376億円から約5億円になっています。売上高を「工事の施工地または役務の提供地」で国・地域に分ける別の区分では、2025年3月期のブラジルの売上高は約376億円でした。
2026年3月期の受注目標
会社は2025年5月15日に、持分法適用関連会社(出資して経営に影響力をもつ会社)の当社持分相当を含めた受注目標を4,000億円としていました。実績は、その総受注高が4,204億円で、目標を上回りました。連結の受注高(期中に新しく受けた工事の注文の額)は約1,759億円でした。
事業と経費
会社は「EPC事業のみの単一セグメント」であるため、事業別の利益は分けて示されていません。前の中期経営計画(2021〜2025)は、EPC事業以外の仕事を増やす目標も示していました。
非EPC・新規事業領域・主要拠点の粗利構成比の目標
非EPC(EPC/EP一括請負(Lump-Sum)案件以外の仕事)の粗利構成比(売上総利益のうち、その区分が占める割合)について、会社は「2025年度:25%以上」としていました。実績は2025年3月期68%、2026年3月期68%で、目標を上回りました。
新規事業領域の粗利構成比についても、会社は同じく「2025年度:25%以上」としていましたが、実績は2025年3月期13%、2026年3月期20%でした。会社は2025年5月15日に「新規事業領域の割合増加は想定より遅れ」と説明しています。
主要拠点6社の粗利構成比は、会社が「2025年度:45%以上」としていた目標に対し、2025年3月期は43%でしたが、2026年3月期は59%となり、目標を上回りました。
2026年3月期の営業利益の見込みと実績
会社は2025年5月15日に、2026年3月期の営業利益を15億円、売上総利益率を13.3%と見込んでいました。実績は190億円の営業損失、売上総利益率3.5%で、見込みを下回りました。会社は、主な理由を「主にブラジル向けガス火力発電案件における収支の悪化」と説明しています。
ブラジル向けガス火力発電案件の工程
会社は2025年5月15日に、ブラジル向けガス火力発電案件の完工を「2025年度完工予定」としていました。2026年2月12日の説明会では「2026 年 4 月の完工を予定」と述べ、2026年8月7日の資料では「ブラジル発電案件は試運転の最終段階、2026年8月完工予定」としており、完工の予定は公表のたびに変わりました。会社は2026年2月12日の質疑で、この案件は「本案件は 2022 年の 7 月受注」であり、費用について「現時点においては、増加の可能性はないということで処理している」と述べ、2026年8月7日の資料では「当期収支への影響は限定的」としています。有価証券報告書は、この案件で「顧客による支払留保額が累積する形となりました」と書いています。会社はこの案件に関する仲裁(裁判所でなく第三者機関が争いを判断する手続き)について、結審まで「4、5 年はかかると踏んでいる」と説明しています。
損失が見込まれる工事について将来の損失に備えて計上する工事損失引当金は、2025年3月期末の約23億円から2026年3月期末は約33億円に増えました。2025年3月期には、のれん減損損失約42億円を計上しています。研究開発費は2025年3月期の約31億円から2026年3月期は約26億円になりました。設備投資は、無形固定資産を含めて総額約15億円でした。
利益と資本
前中期経営計画の純利益目標
会社は中期経営計画(2021〜2025)で、連結当期純利益の数値目標を「23〜25年度平均50億円以上」としていました。実績は2024年3月期98億円、2025年3月期20億円、2026年3月期は-149億円で、目標には届きませんでした。
前中期経営計画のROE目標
同じ計画では、ROE(自己資本に対する利益の割合)について、「2025年度に10%以上」とし、「以降安定的に10%以上」としていました。2026年3月期のROEの実績は-28.9%でした。
2025年3月期の営業利益の見込みと実績
会社は2024年5月15日に、2025年3月期の営業利益を50億円と見込んでいました。実績は25億円で、見込みを下回りました。
営業活動によるキャッシュ・フロー(本業で実際に増減した現金の額)は、2025年3月期のマイナス約231億円から2026年3月期は約93億円になりました。出資して経営に影響力をもつ会社の利益のうち当社の持分にあたる持分法による投資利益は、2025年3月期の約41億円から2026年3月期は約84億円に増えています。
株主への還元
中期経営計画の復配目標
会社は中期経営計画(2021〜2025)で、配当について「中計期間内での復配を目指す」としていました。配当は2024年3月期に12.0円で復配し、2025年3月期は25.0円となりました。2026年3月期の1株配当は0.0円でした。
2026年3月期の期末配当予想の修正
会社は2025年5月15日に、2026年3月期の期末配当を25.00円と見込み、配当方針として「当面、原則配当性向25%以上」としていました。しかし2026年2月12日に、「当期の期末配当につきましては、誠に遺憾ながら無配とさせていただきます」と発表し、実績の1株配当は0.0円でした。
資本の使い道と計画
会社が2026年5月14日に示した2027年3月期の配当予想は25.00円で、予想の配当性向は24.4%です。2026年3月期の有価証券報告書によると、単元未満株式の買取りによる普通株式の取得は1,635株、A種優先株式の取得は14,030,100株でした。
会社は2026年6月19日に、新しい中期経営計画(2026-2030)を示しました。連結当期純利益は2030年度に100億円、ROEは各年度12%以上、継続して得るストック型収益(O&M〔運転・保守=設備の運転と保守の仕事〕・ライセンス・事業投資など)の粗利構成比率は2030年度に10%を目標としています。株主還元については「配当性向は25%以上」とし、2030年度までに自己資本を750億円前後まで積み上げることを目標としています。2027年3月期の営業利益予想は30億円で、2027年3月期第1四半期の営業利益は約19億円でした。
まとめ
東洋エンジニアリングはEPC事業のみの単一セグメントの会社であるため、特定の工事の採算悪化が連結の営業損益にそのまま表れます。2026年3月期は、会社が「主にブラジル向けガス火力発電案件における収支の悪化」と説明する要因により、営業損益がマイナス約190億円の損失、1株配当が0.0円になりました。ブラジル向けガス火力発電案件は、完工の予定が2025年度から2026年4月、さらに2026年8月へと公表のたびに変わっています。
この会社の章がある本:『受注残で先を読む会社のしくみ』
次の決算注目ポイント
- 営業利益・1株配当・配当性向:決算短信
- ブラジル向けガス火力発電案件の完工状況・工事損失引当金:有価証券報告書、決算説明資料
- 総受注高・受注残高(持分法を含む):有価証券報告書、統合報告書
- 自己資本・自己資本比率・有利子負債:統合報告書
- 新しい中期経営計画(2026-2030)のKGI・KPIの進捗:決算説明資料、中期経営計画資料
補足表
| 会社の説明 | 実績 | 判断の理由 |
|---|---|---|
| 「前中期経営計画の純利益目標」の節 連結当期純利益「23〜25年度平均50億円以上」 | 2024年3月期98億円、2025年3月期20億円、2026年3月期-149億円 | 届かなかった |
| 「前中期経営計画のROE目標」の節 ROE「2025年度に10%以上」「以降安定的に10%以上」 | 2026年3月期-28.9% | 届かなかった |
| 「中期経営計画の復配目標」の節 配当「中計期間内での復配を目指す」 | 2024年3月期12.0円、2025年3月期25.0円 | 達成 |
| 非EPC粗利構成比「2025年度:25%以上」 | 2025年3月期68%、2026年3月期68% | 上回った |
| 新規事業領域粗利構成比「2025年度:25%以上」 | 2025年3月期13%、2026年3月期20% | 未達 |
| 「非EPC・新規事業領域・主要拠点の粗利構成比の目標 」の節 主要拠点6社粗利構成比「2025年度:45%以上」 | 2025年3月期43%、2026年3月期59% | 上回った |
| 「2025年3月期の営業利益の見込みと実績」の節 2025年3月期の営業利益の期初見込み50億円 | 25億円 | 下回った |
| 「2026年3月期の営業利益の見込みと実績」の節 2026年3月期の営業利益15億円・売上総利益率13.3%の見込み | 190億円の営業損失・3.5% | 下回った |
| 「2026年3月期の受注目標」の節 持分法を含む受注目標4,000億円 | 総受注高4,204億円 | 上回った |
| 「2026年3月期の期末配当予想の修正」の節 2026年3月期の期末配当予想25.00円 | 2026年2月12日に無配へ修正、実績0.0円 | 変更された |
| 「ブラジル向けガス火力発電案件の工程」の節 ブラジル向けガス火力発電案件の完工予定は2025年度 | 2026年2月12日に2026年4月、2026年8月7日に2026年8月 | 変更された |
用語
| 用語 | このレポートでの意味(資料の定義から) |
|---|---|
| EPC事業 | 設計・調達・建設を一括で引き受ける工事の仕方 |
| 受注高・受注残高 | 受注高は期中に新しく受けた工事の注文の額、受注残高はまだ売上高になっていない工事の残り額 |
| 連結 | 親会社と子会社を合わせたグループ全体の数字 |
| 営業損益 | 工事などの本業での利益または損失の額 |
| 非EPC | EPC/EP一括請負(Lump-Sum)案件以外の仕事 |
| 地域ごとの情報 | 売上高を工事の施工地または役務の提供地で国・地域に分ける |
| 総受注残高 | 持分法適用関連会社の当社持分相当を含めた受注残高 |
| ストック型収益 | O&M・ライセンス・事業投資など継続して得る収益 |
| ROE | 自己資本に対してどれだけの利益を上げたかを示す割合 |
| 自己資本比率 | 会社の資産のうち、返済の必要がない自己資本の割合 |
| 工事損失引当金 | 損失が見込まれる工事について将来の損失に備えて計上する額 |
| 持分法による投資利益 | 出資して経営に影響力をもつ会社の利益のうち、当社の持分にあたる額 |
| 持分法 | 出資して経営に影響力をもつ会社の経営成績を、出資の割合に応じて自社の利益に反映する会計の方法 |
| 財務制限条項 | 借入の契約で、借り手が守るべき財務の条件(コベナンツ) |
| 債務超過 | 負債が資産を上回り、純資産がマイナスの状態 |
| 粗利構成比 | 売上総利益(粗利)のうち、ある区分が占める割合 |
| 仲裁 | 裁判所でなく第三者機関が争いを判断する手続き |
| O&M | 設備の運転と保守の仕事 |
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