三菱重工業のガスタービンはなぜすぐ届かないのか
三菱重工業のエナジー(大型ガスタービン)は、注文してもすぐにタービンが届かない仕組みになっているのか?
エナジー(大型ガスタービン)の受注台数は2021年度16台・2022年度16台・2023年度17台から、2024年度25台・2025年度35台に増えました。まだ完成・引き渡していない契約残台数も2021年度末46台・2022年度末43台・2023年度末36台から、2024年度末48台・2025年度末74台に増えています。新しく受けた注文が、完成して引き渡すまでの間に積み上がっていく事業です。
三菱重工業事業):エナジー(大型ガスタービン
- 発電所を建てる電力会社など→三菱重工業事業):大型ガスタービンの注文(新しい注文が入ると受注台数・契約残台数が増える)
- 三菱重工業事業)→発電所を建てる電力会社など:ガスタービンの完成・引き渡し(完成して引き渡すと契約残台数が減る)
前受金(契約負債)
発電設備などの大きな注文では、顧客から先に受け取る前受金(契約負債)が、工事を進めるための資金のもとになります。
契約負債(顧客から先に受け取った対価)は2021年度末8,865億円・2022年度末9,367億円・2023年度末10,951億円・2024年度末14,345億円・2025年度末21,618億円と増えています。GTCCは、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた発電設備です。2026年5月12日の質疑では、ガスタービンの生産枠を押さえる予約金を顧客から受け取る傾向について、会社は「変わらないか、むしろ強まっていると感じている」と回答しています。注文を受けてから完成まで時間がかかる事業ほど、先に受け取る前受金が工事中の資金の源泉になっています。
収益
売上収益は2016年度39,140億円から2020年度36,999億円まで下がった後、2021年度38,602億円・2022年度42,027億円・2023年度46,571億円・2024年度50,271億円と増えました。2024年度は物流機器事業(旧三菱ロジスネクスト)を含む値で、2025年度の売上収益49,741億円はこの事業を含まない継続事業の金額です。三菱ロジスネクストに関する取引は2026年5月1日に完了しています。
受注残高(期末)は2021年度末54,885億円から2025年度末132,376億円に増えています。
事業ごとの売上収益(2025年度)は、エナジー20,626億円・プラント・インフラ8,808億円・物流・冷熱・ドライブシステム6,308億円・航空・防衛・宇宙13,938億円です。地域別では、2025年度は日本23,520億円・アジア・パシフィック6,969億円・米州13,389億円・EMEA(欧州・中東・アフリカ)5,861億円で、米州は2024年度の10,290億円から増え、アジア・パシフィックは2024年度の7,665億円から減りました。
2024年度の期初見通しとその後の実績
会社は2024年5月8日、2024年度の売上収益を49,000億円と見通していました。実績は売上収益50,271億円・事業利益3,831億円・事業利益率7.6%・1株配当23.00円でした。判定は「上回った」です。見通し・実績とも物流機器事業を含む同じ範囲の数字で、見通しより高い結果になりました。
2025年度の期初予想とその後の実績
会社は2025年5月9日、2025年度の業績予想として売上収益54,000億円・事業利益4,200億円を公表しました。これに対し実績は売上収益49,741億円・事業利益4,322億円で、2025年度決算は非継続事業(物流機器事業)を除いた継続事業の金額です。判定は「比べられない」です。予想は物流機器事業を含む数字で、実績はこの事業を除いた金額のため、公表値どうしでは直接比べられません。
事業と経費
2025年度の事業別の事業利益は、エナジー2,672億円・プラント・インフラ841億円・物流・冷熱・ドライブシステム330億円・航空・防衛・宇宙1,515億円でした。エナジーの事業利益は2021年度862億円・2022年度851億円・2023年度1,415億円・2024年度2,053億円・2025年度2,672億円と増えています。航空・防衛・宇宙の売上収益は2021年度6,052億円から2025年度13,938億円に、事業利益は240億円から1,515億円になりました。事業別の区分は2024年4月1日の組織再編と物流機器事業の組替で変わっているため、5期をそのまま並べて比べられない事業があります。
エナジーの売上収益に占めるアフターサービス(納入後の保守・部品など)の比率は、2024年度62%・2025年度63%でした。納入した設備の保守で継続的に収益が入る分が、売上収益の半分以上を占めています。
研究開発費は2020年度1,257億円・2021年度1,136億円・2022年度1,274億円・2023年度1,783億円・2024年度2,186億円と増えました。設備投資額は2020年度1,255億円・2021年度1,228億円・2022年度1,507億円・2023年度2,004億円・2024年度1,945億円でした。設備投資額は、会社の定義では非流動資産の新規計上額(建設仮勘定の計上額)です。
GTCCの生産能力増強とガスタービンの契約残台数
2026年5月12日の質疑で、会社はGTCC(ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた発電設備)について「2028年度迄に生産能力を30%増強する目途をつけており」と回答しました。回答のあとの生産能力の実績は、まだ確認できていません。回答の時点の資料では、ガスタービンの契約残台数は2024年度末48台から2025年度末74台に増えています。判定は「未定」です。
利益と資本
事業利益は2019年度に(295)億円の損失となり、2021年度1,602億円・2022年度1,933億円・2023年度2,825億円・2024年度3,831億円・2025年度4,322億円と増えています。事業利益率は2021年度4.2%・2022年度4.6%・2023年度6.1%・2024年度7.6%・2025年度8.7%でした。ROE(親会社所有者帰属持分当期利益率)は2021年度7.7%・2022年度7.9%・2023年度11.1%・2024年度10.7%・2025年度12.2%でした。
2021事業計画の2023年度目標とその後の実績
会社は2020年10月30日、2021事業計画で2023年度の事業利益率7%を目指すと説明していました。これに対し2023年度の事業利益率は6.1%でした。判定は「届かなかった」です。同じ2023年度のROEは11.1%、売上収益は46,571億円でした。事業利益率は目標の水準を下回りました。
2023年度の期初見通しとその後の実績
会社は2023年5月10日、2023年度の事業利益の見通しを3,000億円と示していました。これに対し2023年度の実績は事業利益2,825億円・事業利益率6.1%でした。判定は「届かなかった」です。一方、同じ2023年度の受注高66,840億円・売上収益46,571億円・ROE11.1%は、会社が同じ時期に示した見通しを上回りました。事業利益・事業利益率は見通しに届かず、受注高・売上収益・ROEは見通しを上回るという、指標によって違う結果でした。
2026年度の見通しと2026年度第1四半期の実績
会社は2026年5月12日、2026年度の業績見通しとして売上収益54,000億円を示しました。2026年度第1四半期(2026年8月4日公表)の事業利益は約1,596億円で、通期の事業利益予想は5,400億円です。第1四半期決算短信では、直近に公表されている業績予想からの修正は「無」でした。判定は「途中」です。
株主への還元
1株配当は2016年度12.00円から、2019年度15.00円・2020年度7.50円・2021年度10.00円・2022年度13.00円・2023年度20.00円・2024年度23.00円・2025年度25.00円と推移しました。この値は2017年10月1日の株式併合(10株を1株)と2024年4月1日の株式分割(1株を10株)をならした値です。配当性向は2020年度62.0%がこの期間で最も高く、2025年度は25.3%でした。
自己株式の取得による支出(キャッシュ・フロー計算書)は、2023年度マイナス約2.4億円・2024年度マイナス約124億円・2025年度マイナス約1.8億円でした。
会社は2024事業計画で、配当の目安を配当性向からDOE(株主資本配当率)に変更しました。会社の株主還元方針のウェブページでは「中長期的な累進配当を目指します」と説明されています。
2021事業計画の2023年度配当目標とその後の実績
会社は2020年10月30日、2021事業計画で2023年度の1株当たり配当金を160円(2024年4月1日の株式分割の前の数字)と示していました。これに対し2023年度(2024年3月期)の年間配当金実績は200.00円(同じく分割前)でした。株式分割をならした値では20.00円です。判定は「上回った」です。
2024事業計画の2026年度配当目標とその後の実績
会社は2024年5月28日、2024事業計画で2026年度の1株当たり配当金を26円と示していました。これに対し2025年度の年間配当金は25.00円、2026年度の配当予想は29.00円です。判定は「途中」です。2026年度の配当はまだ予想の段階です。
DOE4%以上の目安とその後の実績
これに対し2025年度のDOEは4.1%でした。判定は「達成」です。
資本の使い道と計画
決算説明資料の研究開発費(広義。受託研究等の費用を含む)は、2025年度2,890億円・2026年度見通し3,500億円です。設備投資(広義)は2025年度1,839億円・2026年度見通し2,100億円です。決算説明資料のこれらの値は物流機器事業の分を含みません。24事計(2024〜2026年度)の3年間の投資は、会社の計画では1.2兆円に増やすとしています。
24事計のキャッシュイン計画とその後の見通し
会社は2024事業計画で、2024〜2026年度の3年間のキャッシュイン(現金の収入)を1.5兆円と計画していました。これに対し2026年5月27日に示された見通しは2.6兆円です。判定は「途中」です。
まとめ
エナジー(大型ガスタービン)の受注台数は2023年度17台から2025年度35台に増え、契約残台数も2023年度末36台から2025年度末74台に増えました。2021事業計画の2023年度の事業利益率目標には届かず、2023年度の期初見通しの事業利益にも届きませんでした。一方で、配当の目標やDOEの目安は実績が上回る・達成となり、24事計のキャッシュイン計画も上回る見通しです。注文を受けてから完成・引き渡しまでの時間が長い事業の積み上がりと、その間に受け取る前受金が、この会社の資金の流れの軸になっています。
この会社の章がある本:『受注残で先を読む会社のしくみ』
次の決算注目ポイント
- 2026年度(24事計の最終年度)の通期の事業利益率・ROE・売上収益の実績:決算短信のサマリー
- 大型ガスタービンの受注台数・契約残台数の推移:決算説明資料の該当頁
- 契約負債(前受金)の増減:決算説明資料の該当頁
- 24事計のキャッシュイン・投資の実績:事業計画推進状況の資料
- 1株配当・DOEの実績:決算短信のサマリーと決算説明資料
補足表
| 会社の説明 | 実績 | 判断の理由 |
|---|---|---|
(この回で扱った会社の説明と実績の組は、いずれも本文の該当する節の小見出しに配置しています。)
用語
| 用語 | このレポートでの意味 |
|---|---|
| エナジー(大型ガスタービン) | 三菱重工業の中で、発電所に使う大きなガスタービンを作る事業のまとまり |
| 受注台数 | その年度に新しく注文を受けた台数 |
| 契約残台数 | 注文を受けたがまだ完成・引き渡していない、残っている仕事の台数 |
| 契約負債 | 顧客から先に受け取った対価(前受金など) | | GTCC | ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた発電設備 |
| ITO | 全体最適と領域拡大を通じて継続的な成長を実現するための会社の経営の方法論 |
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